第六十四号 見えないと言う事
WBC(ワールドベースボールクラシック)の興奮から、あっと言う間に一か月が過ぎてしまいましたが、日本が評判通りの力を発揮し優勝したことは、まだまだ記憶に新しいところです。
力を思う存分に出し切れた原動力の一部に、ダルビッシュ選手や大谷選手、そしてヌートバー選手たちメジャーリーガーの力があったからだと思いませんか。
そのひとりダルビッシュ選手がインタビューに答えて言った言葉に「結果はコントロールできない。コントロールできるのは過程だけだ」という言葉がありました。さすがに野球を極めた人の言葉ですね。エジソンは「99%の努力と1%の閃き」と言いました。この二つの言葉は『行雲流水』の意味するところと通じるように思いませんか。
私は、ダルビッシュやエジソンの言葉を、最大限の努力をした上で結果は委ねるという意味にとらえたしだいでした。
話は変わりますが、つい先日、ふと思ったのですが、『生活』と言う漢字は、『生きて活躍する』と書くのですね。
しかし、一人だけでは活躍できる範囲も狭く、100%力を発揮することすら難しいのではないでしょうか。私は、視覚に障害を持ったために、一人でできることは以前よりも少なくなってしまいました。言い方を変えると、多くの方にお世話になって生活している私なのです。
私が言いたいことは、例えば障害を持っても人の力を借りることで、生活できるということです。つまり、その気さえあれば、障害者でも生きて活躍できる場はあると言うことが言いたかったのです。
始めの詩は、その大昔に、とってもお世話になった二人の方の夢を見たのですが、その夢の様子を書いたものです。
私がまだ二十代の頃に出会い、人生や世界情勢など、多くを教わった方たちです。当時80歳と70歳の男性二人が青々とした鎮守の森を背にニコニコ笑って私を見ている夢でした。二人の後ろの森には、鎮守の神様のお社に延びる山道がありました。
どうぞ読んでください。

〈晴れ晴れと〉

屹立した山脈の
清流のせせらぎと
森々と繁茂する
森の囁きは
軽快な曲を紡ぎだし
軽やかなリズムを奏でだす
犯し難いほどの青雲は
燦然として気高く
あなたたちの笑顔は晴れ晴れとし
私の気持ちは凛となる

▽ 夢に出てきた二人の内、ひとりの方は会社の社長で、もう一人の方は、若い頃共同通信社に勤めていた方でした。
良く晴れた蒼穹の下で満面の笑顔をして私を迎えてくれた二人を夢で見た朝は、なんだか心が浮き立ちました。もしかして、二人そろって今頃は、天国で悠々自適の生活を楽しんでいるのかな…などと考えたのでした。
次の詩は、私の実体験を書いたものです。これが詩と言えるのかどうかはよくわかりませんが…まさにこれが、見えないということです。笑いながら読んでください。

〈よくぶつけよく転ぶ〉

横断歩道を
あわてて渡ろうとしては転び
歩行中携帯が鳴り
気を取られて縁石にぶつかり転ぶ
階段があるとは思わずに
足を踏み外しては転び
声を掛けられ
振り向きざまに転ぶ
一度は弁慶の泣き所を
しこたまぶつけ
大きな青胆と
五寸ほどの切り傷を作り
Gパンにカギサキ傷を
造ってしまったこともある
リハの通路を
軽快に歩いていて
壁に額を
思い切りぶつけ
目から火花を散らす
確かこのあたりに
自動ドアがあったなと
考えていては
硝子の壁に鼻をぶつけ
鼻の頭がパカンと開き
赤い血液が吹き出す
グラウンドから続く
点字ブロックを
少し右へずれて
鋼鉄の柱に
顔の正中線をもろにぶつけ
ゴツンと頭が響き
鼻血がたらりとたれて
しゃがみ込む
通路を左折して
ちょっと右手を手摺から話した刹那
股間に囲いの角が食い込み
「ウゥッ」と腰を引き
顔をしかめる
いやはや
そんなことは
日常茶飯事
目に障害を持ち
見えないとはいえ
多すぎはしないだろうか
多すぎるに決まっている
この前は
「いい天気だな」と
青空を仰ぎ見たその時
身体がふらつき
右へ左へ腰を振り
歩道から右足を踏み外して
宙を空振りした足が
そのまま膝から落ちて
ゴンッと地球に膝蹴りを
したこともあったのでした
「歩いている時には
携帯をとってはだめでしょ」と
二十歳以上も年下の子に叱責され
「危険だと思ったら防御姿勢を取りなさい」と
可愛い声の女の子に叱られる
そんな時は
肩をすぼめて
小さくなり
「ごめんなさい」と
小声で言う
その度に
『明日からは気をつけて歩こう』と
思う私なのです
そしてまた
凝りもせず
同じことを繰り返す
毎日なのでした
そんな私と出会ったなら
どうか声を出して
笑ってください

※リハ(国リハ):国立障害者リハビリテーションセンター

▽ 私自身の体験や、知人の話から自宅で怪我をするケースが意外に多いことを感じます。
また、年配者の骨折は、それが完治しても車いすの生活になってしまったり、認知症が進んでしまい、自宅で生活できなくなるケースもあるようです。
私は、そんな方たちを大勢見てきました。たかが怪我と思わず、十分注意したいものです。
今回も、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
石田眞人でした