第五十二号 秋空に涙
私は50歳を間近にして視覚障害者の仲間入りを果たしたのですが、目を失くした経験から、目が見えないこともまんざら悪いことばかりではないことを知りました。
その一つに、空想力が広がったことがあります。目を開いても外界は全く見えないのですから、当然と言えば当然ですが、心の中では時空を超えて、過去から現在、そうして未来へと自由に遠近を翔け巡ることができます。
東洋思想の一つに『大宇宙と小宇宙(マクロコスモスとミクロコスモス)』という考え方があります。この意味はすでに皆さんもご存じのことと思いますが、少しだけ説明させていただければ『大宇宙とは私たちが存在している宇宙全般を言い、小宇宙とは、ずばり私たち人間のことを言います』。この思想の観点から、人間の健康は自然界と一体であると考えるのです。つまり、宇宙(自然界)が汚れることで、人間に悪影響を及ぼし、人の心が汚れることで、宇宙(自然界)にも悪い影響がある…と言う考え方です。
私は徒然に考えました。『目で見ることのできる世界には限界があるが、目を瞑り、心の世界を見るとそこには限界はないのではないかと』です。
勝負の世界では「試合をする前に、心(頭)で勝利する経緯を想像(イメージ)してから実際の戦いに臨む」と聞きます。ここにも『人生の方程式』のひとつがあるのではないでしょうか。言葉を変えれば『心(頭)の中で悪いことや不平不満を考えるのではなく、良いことを想像しイメージした方が良い』と言えるのではないかと思うのです。
また、付け加えて言えば、自分自身の心を大きく広くするためには、自分の考え(正義感や思想や哲学、自身の理想など)に執着し固執するのではなく、沢山の人たちの考えを、受け入れられずとも、認める努力が必要だと考えます。
始めの詩は、テレビやPCで流れるニュースを観て、感じたままをリサちゃんの言葉を通して、遊び心で作ったものです。
私やリサちゃんとは、違う感じ方の持ち主も沢山いらっしゃることでしょう。そこは大きな心でお許しください。では、読んでみてください。
〈リサちゃんは考えた〉
令和四年に
小学六年生になった
リサちゃんは
手のひらを右頬にあてて
頭を右に傾けながら
考えた
あたしさえ楽しければいいと思ってきたが
あたし一人きりでは楽しさは半分になると
ある日あの時リサちゃんは気付いた
すると観えるものが変わった
しかし何が変わったのかはわからない
・・・・
新型コロナウイルス感染者の増加で
学校はお休みになったのに
お友達と遊ぶことができないなんて
『退屈だなぁ』と
リサちゃんはため息をついた
あたしがどんなに元気でも
学校のお友達が
病気になったなら
つまらないのだと
リサちゃんは気づいた
「みんな…早く元気になってね」
・・・・
ある日リサちゃんの家を
大きく長い地震が襲った
リサちゃんは恐くて
小さな胸がドキドキと波打った
テレビのニュースを見て
恐ろしさは倍になった
あたしの家が無事だったとしても
あたしたちの住む町が
被害を受けたなら
あたしの心も傷ついてしまうのだ
あたしの住む町がいつでも安全でありますように
・・・・
ここのところテレビでは
毎日毎日
ロシアがウクライナに
侵攻している報道を
映し出している
沢山の子供たちが死んだことを知ると
目から涙が溢れ出した
リサちゃんは布団に潜って泣いた
日本が平和だとしても
世界のどこかで戦争があると
あたしの心も幸せになれないのだ
・・・・
「世界中の誰もが
幸せになれますように」
リサちゃんは神様に
手を合わせてお祈りをした
あたしが幸せでも
日本が幸せでも
世界が争っていたなら
どこかで沢山の人達が
涙を流していたのなら
あたしの心も痛いのだ
早く平和な世界が訪れますように
▽ 昔読んだゲーテの本に、正義感が暴力を生む、ひいては戦争を生んでしまうと書いてありました。ここで言うところの、正義感とは…各々が持つ善悪の観念や価値観や理想などのことだと私は考えます。
奇麗ごとを言わせていただけば、お互いを思いやり、それぞれの国の価値観や考え方を認め合うことができたなら、戦争にはならないのではないかと思うのです。
また、国を個人に置き換えて考えると、お互いの立場に立って物事を考えることができたなら、インターネットの世界での下劣な行為は無くなるのではないでしょうか。
「そんなのは、奇麗ごとにすぎないよ」と言われてしまえば「ごもっともです」と頷くしかありませんが…
次の詩は『森』をキイワードにして、季節の移ろいを書いてみました。ほんのちょっぴりでも気持ちが明るくなっていただけたなら嬉しいです。
どうぞ読んでください。
〈森の囁き〉
緑な森は
匂い立ち
やがて蒼穹を
雨雲が覆う頃
いまかいまかと
夏は出番を待ちわびる
・・・・
お日様の陽光に
雨雲は溶け
森がささやき始めると
青雲たなびく里山に
小鳥は喋々と囀り
薫風はこぼれだす
・・・・
夏祭りの笛太鼓が
森々と繁茂した森を
震わせる頃
燦然たる太陽の
大輪の花は
散り始める
※喋々(ちょうちょう):口数の多いこと。しきりにしゃべること。また、そのさま。
▽ 私は田舎生まれの為なのか、自然から沢山の喜びを貰いながら生きてきました。
晴れ渡った青い空・夜昇お月様・何億光年の昔から、光を届けてくれる星たち・季節の移ろいを教えてくれる風や花々などなど・あげれば切りがありませんが、皆さんにも自然から喜びが届いているでしょうか。まだ届いていない方は、もう少しお待ちください。必ず届きますから!
今回も、石田眞人の戯言(たわごと)にお付き合いくださりありがとうございました。
石田眞人でした