第四十三号 点ブロスマフォ
忘れもしません。3月28日朝5時のNHKニュースで、点ブロスマフォの話題が取り上げられていました。皆さんは『点ブロスマフォ』の意味をご存じでしたか。私は知りませんでした。そのニュースの内容は次の通りです。
『最近、点字ブロックを歩きながら、歩きスマフォをしている若者が増えている』というものでした。私はそのニュースに接した瞬間、意味を理解できずに唖然としてしまいました。その点字ブロックを利用している私が、こんなことを言っていいのか迷いましたが、ひとこと言わせてください。「驚きを通り越して、あきれてものも言えません。そんなに常識レベルの低い若者がいるのか!」失礼しました。因みに、そこまでスマホに執着する若者は、アルコール依存症に近い症状があるのかもしれませんね。
それには続きがあるのですが、点字ブロックを歩いていた視覚障害者が、歩きスマフォの若者と正面衝突をして大けがをし、救急車で運ばれたということでした。
私は想いました『怖くて点字ブロックを歩けないな』とです。一歩譲って、私が怪我をするだけならいいけれど、ぶつかった相手に大けがをさせてしまったなら…!と考えると、慄然とし、背筋に寒気が走ります。私は、柔道初段を持っていることもあり、他の人よりも体格が良いのです。
これは余談ですが、私は見えないこともあり、歩行中に人に怪我をさせてしまったり、買い物中に商品を壊してしまった時のための損害保険に加入しています。
話を戻しますが、そんな自己中心な若者がいる半面で、思いやりあふれる若者も多いことを、ここに書き加えておきたいと思います。
以前にも紹介しましたが、2010年5月から9月にかけて、視覚障害者の自立訓練を受けました。その中で、白杖を使った歩行訓練をしました。その時に教えてくれた教官は「石田さんは声をかけてもらえやすい顔だね」と言いました。その時、声をかけてもらえやすい顔とはどんな顔だい!と心で突っ込みを入れました。
また、なぜか私が助けを求めた人は女性が多く、しかも若い女性ばかりだったようで…その時にも教官が突っ込みを入れてきました。「石田さんは若い女性ばかりに声をかけているね」と…私が「たまたまです」と言うと「またまた」と返されたりしました。
くだらない話はこれくらいで終わりにして、最初の詩の紹介させてもらいます。この詩は、国リハ時代の3年生の夏休みから冬休みにかけて、皆に浦和の整骨院に通った時の経験をもとに作った詩です。その整骨院で働く先輩を頼って、あんまマッサージ指圧の訓練を受けるために毎週土曜に通っていました。何度も道程を歩く練習をして、通い始めたのですが、道に迷うこともしばしばあり、その時には、沢山の方たちに助けられました。それで感謝の気持ちを込めて書いたものです。どうぞ読んでください。

〈溢れる親切〉

白杖を持って
ひとり街を歩けば
優しい心と出会う
感動は胸から溢れ出し
目からポタポタこぼれ出す
・・・・
女子高生との一期一会
それは 土曜の夕暮れ時だった
あん摩マッサージの勉強を終えて
南浦和からの帰り道
JR新秋津駅から
西武秋津駅を目指して歩き出したものの
数メートルも行かないのに道に迷ってしまう
玉響立ち止まり考える私
腹に力を込めて勇気を振り絞り
「すみません」と
誰彼構わず声を張り上げる
すると前から聞えていた足音が止まり
「どうしました」と
可愛らしい声の女の子
私は恐縮しきりに
「秋津駅に行きたいのですけれど行き方を教えてください」と
肩をすぼめて
小さな声を出す
暫し考える女の子
「私が案内します」と
まもなく聞こえてきた
私はほっとし
女の子の右肩に
そっと手を乗せ歩き出す
遠慮がちに話しかける私
女の子は部活を終えて
秋津駅から新秋津駅に向かっていたと言う
態々(わざわざ)来た道を
私のために引き返してくれる女の子
胸が熱くなり鼻の下を伸ばしきりになる
だらしない私
・・・・
それは若いOLとの一期一会
秋津駅の改札で
右往左往する私
すると何処からか優しい声
それは若い女性の声だった
「どうしましたか」と
救いの神
ほっとして私は
「駅員さんの所に行きたいのですが」と答える
会社帰りのOLさんは
にっこり笑顔を向けて
手を取り引っ張って行ってくれた
お礼を言って別れた後も
柔らかな手の感触と
さり気ない優しさに
嬉々となる私
・・・・
それは小学生の男の子との一期一会
ある日曜の午前中
近くのコンビニを目指し歩いていた私
そこはJR行田駅の前だった
突然愛らしい声がした
「どこまで行くのですか」
心も口元もほころぶ私
満面の笑顔で
「そこのコンビニへ行く途中です」と答えた
すると男の子は
小さな手で私の手を取り
慣れた様子で
右の肩を貸してくれた
コンビニで買い物を終えて
店員さんに見送られ
店を出ると
そこには男の子が待っていてくれた
「帰り道も案内します」と
嬉しいことを行ってくれる男の子
二人は仲良く
来た道を歩き出す
ほんの短い道のりで
交わした会話は僅かだが
心の中は
歓喜雀躍し
優しさが溢れ出す
大宮へ行くために行田駅に来たと言う男の子
ひとりになった私は
足取り軽く
ランバダもどきのステップを踏む

▽ 私は見えなくなってから、ひとりで街を歩くことにとても恐怖を感じます。怖くてたまらないのですが、国リハ時代は、兎にも角にも早く一人前のマッサージができるようになりたいという一心で、そんな恐怖心を心の中に押し込んで、国リハのある所沢から南浦和に通っていました。勇気を左手に、白杖を右手に持って、ひとり街を歩くと、沢山の一期一会に恵まれたことを覚えています。
それは、ある夕方のことでした…突然私の左手に、右腕を絡めて引っ張りだした人がいました。その人は、こんなことを言いました「何処まで行くの。私が連れて行ってあげるからね」と…その声からして、どうやら私以上に年配の女性のようでした。私が「そこのデパートの近くまで行きたいのです」というと、私の腕に手を絡めて、ぐいぐい引っ張って歩くのですが、結局目的地までたどり着けずに、徒歩5分くらいの距離を、20分くらい引っ張りまわされたこともありました。時には、そんな苦い経験もしましたが、振り返ってみると、すべての出会いや出来事は感謝しかありません。
次の詩は、ある星の奇麗な夜に、どこかに住んでいるであろう私の理想の女性像を心に思い描きながら作ってみました。
どうぞ読んでください。

〈二つのソウル〉

あなたから香る優しさは
冷え切った僕の身体にも
温かな春の息吹を連れてくる
そうして僕の心には
色鮮やかな花が咲く
・・・・
あなたの声の明るさは
疲れ果てた僕の身体にも
清かな初夏の蒼穹を連れてくる
そうして僕の心には
澄み切った風が吹き抜ける
・・・・
あなたのにこやかな口元は
愛することを忘れた僕の身体にも
秋の実りと艶やかな色どりを連れてくる
そうして僕の心には
哀愁に満ちた歌声がこだまする
・・・・
あなたの瞳の輝きは
澄み切った夜空に光る星さえも
見劣りするほど美しく
モノクロな僕の心には
愛する喜びを教えてくれる

▽ 長い間生きていると、沢山の人との一期一会があります。若いころからお付き合いさせてもらっている人であっても、その一瞬は一期一会に違いありません。そう想うと、その一瞬一瞬をしっかり心に止めて(とどめて)おきたいと思うのです。
今年も、いよいよ梅雨に入りました。皆さんも健康にはご留意くださいませ。
今回もお付き合いくださり、ありがとうございました。
石田眞人でした